ニュースの概要

薬事日報によると、厚生労働省の中井審議官は、治験を支える薬局を薬剤師政策の新しい流れとして位置づけた。これまで薬剤師の仕事は、発売後の薬を安全に使ってもらう「育薬」が中心だった。今後はそこに加えて、新薬の開発段階である治験に薬局が関わる「創薬」側への参加を後押しする構えだ。患者に身近な薬局が、服薬の様子や生活の変化を丁寧に把握できる点が評価されている。薬局の役割が調剤中心から広がる転換点として、業界の関心が高まっている。

引用元: 【厚労省 中井審議官】治験支援薬局は新たな流れ‐薬剤師政策「育薬から創薬」(薬事日報)

分析・見解

育薬から創薬へ、薬剤師の守備範囲が広がる

これまで薬局は、処方箋に沿って薬を渡し、飲み方を説明し、副作用を見守る場所だった。発売後に薬を育てる「育薬」の担い手である。今回の方針は、その手前の開発段階にも薬局が関わってよいと示したものだ。

治験とは、新薬の効き目と安全性を人で確かめる試験である。参加者の通院や服薬の管理には手間がかかる。ここに薬局が加われば、病院の負担は軽くなる。

治験が遅れる理由と、薬局が埋められる隙間

日本では治験の実施に時間がかかるとされ、海外で先行した新薬が国内で使えない「ドラッグ・ラグ」が課題になってきた。原因の一つは、患者の確保と継続の難しさだ。

治験は通院回数が多く、働く世代や高齢の患者にとって負担が重い。途中でやめてしまう人も出る。自宅や職場の近くにある薬局が、服薬の確認や体調の聞き取りを引き受ければ、通院の負担は減る。薬剤師は医療者の中でも患者と会う頻度が高い。この接点の多さが、治験の継続率を上げる力になりうる。

在宅医療や遠隔診療と同じ構図で進む分業

この流れは、新しい思いつきではない。在宅医療では、薬局が患者宅へ薬を届け、状態を医師に伝える役割を広げてきた。オンライン診療の普及でも、薬の受け渡しは薬局が支えている。

治験でも同じように、病院が担ってきた作業の一部が地域に移る。つまり医療の分業が、診療から開発へと一段階進むわけだ。独自の見方をすれば、これは薬局にとって調剤報酬以外の収益源をつくる動きでもある。調剤料は改定のたびに圧力を受けるため、開発側から対価を得る道が開ければ、収益の柱が増える。

実現には人材と品質管理の壁がある

課題は小さくない。治験には厳格な手順と記録が求められる。誤りがあれば試験全体の信頼を損なう。薬局側には、専用の研修、記録の管理、個人情報の保護を整える力が必要になる。

薬剤師の不足も重い。すでに多くの薬局は調剤と服薬指導で手一杯である。治験支援を担える薬局は、当面は一部の拠点に絞られるだろう。全国一律に広がるのではなく、中核となる薬局から段階的に増える形が現実的だ。

ビジネスへの影響

薬局経営者が今から確かめておくべき三つの条件

治験支援に関心があるなら、まず自店の体制を点検したい。確認したいのは、記録を正確に残す仕組み、秘密を守れる個人情報の管理、研修を受けた薬剤師の人数である。この三つがそろえば、製薬会社や治験を担う機関との話し合いがしやすくなる。

いきなり大きく投資する必要はない。まずは在宅や服薬フォローで培った経験を整理し、治験側に説明できる形にしておくとよい。

製薬会社と医療機関にとっての新しい選択肢

製薬会社にとっては、患者の通いやすさが治験の成否を左右する。地域の薬局網を使えば、参加者を集めやすくなり、脱落も減らせる可能性がある。開発期間が縮まれば、費用の削減にもつながる。

医療機関も、治験の事務や服薬確認を外に分けられれば、本来の診療に時間を回せる。ただし、責任の分け方と費用の負担は早めに取り決めておく必要がある。ここが曖昧だと、現場の混乱を招く。

薬剤師個人にとっては、調剤以外の専門性を磨く機会になる。キャリアの幅を広げたい人には追い風だ。

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